座席
1階16列23番
キャスト
チェーザレ・ボルジア 中川晃教
ミゲル・ダ・コレッラ 橘ケンチ
アンジェロ・ダ・カノッサ 赤澤遼太郎
ジョヴァンニ・デ・メディチ 鍵本輝
ドラギニャッツォ 本田礼生
ロベルト 健人
ダンテ・アリギエーリ 藤岡正明
ロレンツォ・デ・メディチ 今拓哉
ラファエーレ・リアーリオ 丘山晴己
ハインリッヒ7世 横山だいすけ
ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ 岡幸二郎
ロドリーゴ・ボルジア 別所哲也
アンリ 稲垣成弥
ランディーノ教授 武岡淳一
男性アンサンブル 石井雅登、植木達也、大久保祝臣、小原悠輝、後藤光葵、高山裕生、中島大介、溝口雄大、矢木俊也、山川大智、渡部又吁
女性アンサンブル 安里唯、小野田真子、篠崎未伶雅、平川はる香、横関咲栄
感想
2020年春に上演予定だったもののコロナの影響で公演中止となっていた「チェーザレ 破壊の創造者」ですが、約3年越しについに上演されました!
もともと原作ファンだったので、この日をとても楽しみにしていました。
明治座での観劇は初めてだったのですが、かなり横長の舞台だったので中央ブロック後方は全体が見やすく良かったと思います。
歌多めのミュージカルで、プロジェクションマッピングを活用した見せ方の工夫など新鮮な舞台でした。
ストーリーはおおむね惣領冬美先生の原作に沿っていたと思いますが、一部エピソードの順番などを入れ替えて再構成していたように思います。
テーマとしてはルネサンス的人間賛歌と、腐敗した教会に代わる武力による新たな統治といった感じでしょうか。
休憩を除いて2.5時間という尺に収めるために、このテーマに沿ってシンプルな脚本にされていたように思いました。
チェーザレ:
40歳の役者さんが16歳の少年を演じるのは失礼ながらさすがに無理があるのではと思っていたのですが、実際に見てみると年齢は全く気になりませんでした。
制作発表の歌唱披露は中川さんとして歌ってらしたのだと思うのですが、舞台上ではチェーザレとして制作発表時よりも若々しい、ちょっと潔癖な雰囲気で歌われていてさすがだなあと。
小柄な体格もいい方向に作用していたように思います。
もちろん学生たちを演じる若手の俳優さんたちと比べると貫禄はあるのですが、そこは主役だし重い立場のキャラクターなのでむしろちょうどよかったです。
セリフの発音はべらんめえ風というか、ちょっと独特な感じだなと思いました。貴公子という感じではなかったかな。これも16歳の少年としての表現だったのかもしれません。
ミゲル:
キャスト発表の時点で「見た目がミゲルそのまま!」と思いとても期待していました。
EXILEのことはあんまりよくわからないのですが、橘さんはダンサーさんだそうで、確かに2幕冒頭のロドリーゴの歌ではダンサーとしてパッと目を引く華がありました。
歌とセリフは…正直あんまり…。もっとダンスを見たかったです。
ミゲルは割とクールに振る舞うキャラクターだと思うのですが、クールが行き過ぎて感じ悪いに片足突っ込んでいるような印象でした。
尺の都合上、アンジェロとあまり仲良くなれない脚本なので仕方ないかな。
ジョヴァンニ:
原作では見た目も含めてジョヴァンニが一番好きです。
が、さすがに「最も不細工な教皇」と将来呼ばれそうな説得力のある見た目の役者さんは用意できなかろうと思っていたので、演じる鍵本さんがシュッとしていても文句はないです。
卒業試験の「私は美しくない」というセリフはちょっと無理がありましたが…。
序盤はもっと不遜に演じてくれてもいいと思いましたが、終盤アンジェロとの会話や卒業試験を通して立派な成長を見せてくれました。
ジョヴァンニのそこが好き。
ドラギニャッツォ:
1幕のランディーノ教授による授業のシーンで、チェーザレの上から目線の統治論にちょっとイラつく演技をしているように見えました。
2幕ではチェーザレと同じく庶子であるものの貴族と平民という身分の違いがあることが示されますが、それを前提とした1幕の演技なのかなと思わされ、引き込まれました。
1幕ラストではあの陰険なドラギニャッツォがめちゃくちゃ踊っているのが面白かったです。
ダンテ:
歌がうますぎて度肝を抜かれました。
割と常にブチギレで歌っているのでちょっと怖かったですが、神曲自体がああいうトーンの文学作品なのでしょうか。
ミュージカルにはサヴォナローラが登場しないので、その分ダンテが激情を担ってくれてちょうどよかったのかもしれません。
原作ではランディーノ教授がダンテとハインリッヒ7世について語りますが、ミュージカルではダンテとハインリッヒ7世が自ら登場して語るので、より生き生きと引き込まれるように思いました。
ラファエーレ:
観劇前は美人過ぎて解釈違いだと思っていたのですが、これはこれで新しいキャラ付けで面白かったです。
原作のラファエーレは被害者ぶりつつも魔窟である教皇庁で生き残る抜け目なさがある人物でしたが、ミュージカル版のラファエーレは本当に美を愛するだけの不幸な被害者として造形されているようでした。
1幕序盤でドナテッロのダヴィデへの愛を語っていたので、ロレンツォと和解してダヴィデ像を見るシーンがあるかと思っていたのですが、特に何もなく流れてしまって残念でした。
ジュリアーノ:
歌の上手さによる説得力がありすぎて、次期教皇はロドリーゴよりジュリアーノのほうが良いのではと思わされてしまいました。
2幕のソロ曲で原作以上にジュリアーノのキャラクターが立体的に表現されていたように思います。
ロドリーゴ:
怪物というよりも食えない狸親父といった感じの、割とコミカルな表現だったと思います。
自身の子供たちは一族の繁栄のための手駒としか思っていないというキャラクターだと理解していたのですが、今回のミュージカルでチェーザレへの愛情を示すような歌があったような…。
「あれ?思っていたかんじと違う?」と驚きました。
その他:
・プロジェクションマッピングの活用が本当に面白かったです。初見の人にも人物関係がわかるように家名と家紋を映したり、様々な芸術作品や建築物を投影するなど。記憶にある限りでは、ボッティチェッリの春、レオナルド・ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図、ゴヤのわが子を食らうサトゥルヌス、システィーナ礼拝堂、コルドバのメスキータなど。
・天国に「皇帝チェーザレ」のための椅子があると明示されたことに驚きました。ジョヴァンニに語っている通り私生児であるチェーザレには教会での出世は難しいし、実際チェーザレ・ボルジアは戦いに明け暮れていくことになるのだけれども、原作においては「武力で世界を統治する」と明示はしていなかったように思ったので。